「君の名は。」のマーケティング的考察

ようやく見てきました

先週末から、TOHOシネマズなどでの上映もはじまった「君の名は。」。

連休明け1回目の時間帯なら空いているだろうと思いきや、そんなこともなく。朝の段階で、これだけ席が埋まっているのなら、たいしたものなのでは? さすが大ヒット作品です。

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というわけで、ここからはネタバレも含みつつ、大ヒット映画となった「君の名は。」を、同じ東宝作品である「シン・ゴジラ」を絡めて考察してまいりたいと思います。

とはいえ自分は、「製作委員会方式がどうだとか」「新海誠作品はあーだこーだ」という映画の詳しいことは、全く知らない。そもそも「シン・ゴジラ」の監督がどういう人物なのかすらよく知らなかったくらいなので、細かい部分はツッコミようがありません。あくまでもマーケティング的視点から考察していきたいと思います。

ネタバレなど読みたくないという方は、こちらでページを離れてください。

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(ネタバレ回避の緩衝画像です)

 

ネタバレがOKという方は、この先にお進みください。

 

テレビアニメっぽい始まり方

映画は唐突にはじまりました。

「スターウォーズ」のようなオープニングテロップが流れて、主題歌がドーンと始まるのではない。いきなり男女が入れ替わった女の子のシーンからでした。それから少しして主題歌が流れる。

これはテレビアニメっぽいな

と思いました。

スポットCMが明けて、いきなり始まる。視聴者は心の準備ができていないうちに、「え?始まったの?」と驚きつつ見始める。そこに視聴者の心をつかんで離さないシーンを持ってくる。そうしたテレビアニメの構成と同じ。うまいなと思いました。

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シン・ゴジラは非現実の中の現実

今年、東宝が送り出したもう1つの大ヒット映画「シン・ゴジラ」。
現時点では、日本に巨大不明生物が襲来することはありえませんし、「ネッシー」のような大型生物の存在は、捕食する餌の問題などから否定されております。

地球上にはかつて体長30m超のスーパーサウルスがいましたが、そこまで巨大化したのは、現在より酸素濃度が高かったためと推測されています。今いきなり地球の酸素濃度が高くなる可能性はありません。だからゴジラは非現実の象徴。

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一方で、シン・ゴジラで描かれた政治家の決断できないシーンの数々は、我々日本人にとってリアリティがありすぎる。世界各地で起きているテロは、対岸の火事などではありません。特に2020年に向け、世界からこれまで以上の外国人を受け入れようとしている事実があるのですから、その時あんな呑気なことをされたら、日本は内部から崩壊します。

そういう観点では、シン・ゴジラは非現実をベースに現実を突き詰めた映画という見方ができます。
ゴジラというありえない非現実と、政治という身に迫った現実がないまぜになった絶妙なバランスが理解できないと、シン・ゴジラは楽しめないでしょう。日本以外の国で、さほど評価されないのもやむをえないことだと思います。

「君の名は。」は現実の中の非現実だけど

その点、「君の名は。」はシン・ゴジラの真反対、

現実の中の非現実

を突き詰めた映画なのではないかと思います。

映画のシーンとして使われた場所の「聖地巡礼」が流行っているそうですが、本作で気になったのは、しばしば登場したJR四ツ谷駅前。「綿半野原ビル」がそのまま使われているなと気づくと、もうそういうところばかりに目が行ってしまいました。

「カフェ」のサントリーBOSSの自販機もそのままだし、山手線のドア窓広告の「Z・KAI」までリアルに再現されている。

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単なるプロダクト・プレイスメントといえばそれまでですが、普通なら「BASS」や「Y・KAI」とする程度ですませてしまうところを、細かなところまで現実を追求している。
「君の名は。」で注目すべきビジュアルは、美しくリアルな描画だけではありません。

その一方、「君の名は。」の基本である男女の人格入れ替えは、実際には絶対に起こり得ないことです。これが非現実的なことは、ここで詳しく説明せずともよいでしょう。
だから、「現実の中の非現実」が「君の名は。」なのですが……。

火球があるなら隕石落下もある

もう1つの重要なファクターである「1000年に一度の彗星が分裂し、その1つが小さな村を破壊する」ということは、現実に起こる可能性があります。ゴジラのような巨大不明生物が誕生する確率よりも高いはずです。

恐竜を絶滅に追い込んだきっかけとなったユカタン半島への隕石落下。半径30km圏内の森林を焼き尽くした「ツングースカの大爆発」。どちらも歴史的な真実です。

私は中3の冬の夜、「火球」を見たことがあります。宇宙から降ってくる火球です。下記の動画にあるものよりも、もっと大きく見えた記憶があります。

冗談でなく、夕焼けで見える太陽くらいの大きさに見えました。メラメラと真っ暗な夜空を落ちる火球。友達3人と一緒に見たので、見間違いではありません。翌日の新聞には、秋田県あたりに落下したと記事が出ていました。「秋田県に落ちたのに、あんなに大きく見えたのか」と思いました。

隕石落下は、宇宙空間に漂う地球として、避けることが難しい真実。だから、「君の名は。」は

現実の中の非現実に内包された真実に揺れ動く映画

というややこしい見方もできます。

隕石落下に対し、映画「アルマゲドン」のようなハッピーエンドはありえない。だから残されたわずかな時間でなんとかしなければという気持ちが湧いてくる。
本作では、ラストシーンに近い、一番ハラハラドキドキのところですが、そういうところが、主役と同じ高校生世代だけでなく、中高年世代にもウケているのかな……と考えておりました。

「君の名は。」が中高年にもウケている? なぜハマっているのか - ITmedia ニュース

30分単位のヒミツ

冒頭の入り方で「アニメ番組か…」と考えてから、ほぼ30分後、突如挿入歌が大きく流れました。どうやらシーンの大転換です。これでますます、

テレビと同じ時間間隔で作っているのか?

と考えました。

こうなると次の「30分後」も気になってしょうがない。案の定、60分あたりでやはり挿入歌が流れ、シーンは変わりました。その次は90分あたりよりも少し早い85分くらいでしょうか。やはりシーンの転換がありました。全体で1時間45分の映画ですから、ラストシーンまでの区切りのよさかなと思いました。

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自分がそうなのですが、長時間の番組を見続けることができなくなっております。かなりのテレビっ子だった自分ですらこうなのだから、動画世代の若者であればなおさらでしょう。

YouTubeでどんなに面白そうなネタがあったとしても、1分以上あるものは視聴する気になりません。スマホであったら30秒以内かも。そういうリンクを貼る時には、頭出しをしてくれないと困るというワガママ脳に、すっかりなってしまいました。

そんな人が増えているから、30分ごとにメリハリをつけた。制作陣がそこまで考えていたかはわかりませんが、結果的にそういう展開になっています。

シーンを30分単位で区切るのは、いざテレビで放映する時にCMを入れやすくなるという利点もあります。これほどの大ヒットとは予想していなかったようですが、テレビ放映は見越していたはず。やはり時間配分はかなり練り込んだのではないでしょうか。

ポイントは○○○○○と同じ設定だからか

見終わってすぐに思ったのは、この面白さを誰かに伝えたいな~と思ったこと。やはりそれだけの力がある作品です。
とりあえず自分は家族LINEにその旨を書き込みましたが、高校生であれば、翌日学校に行ってクラスメートに話すでしょう。

もうすんげえから

みたいに。

そうやって口コミで瞬く間に広がった結果、想定を大幅に上回る観客動員となったはず。
では、ここまで大ヒットとなった要因といえる「具体的な口コミ内容」は何だったのでしょうか。どのような内容が伝わったから広まったのでしょうか。
根拠となるデータは何もありませんが、脳内で推考してみたいと思います。

男女の人格が入れ替わるシナリオは、小林聡美が30年以上前に、映画「転校生」で演じました。この時は、一緒に石段を転げ落ちて入れ替わった。「転校生」は、その後リメイク版も公開されています。

アメリカのテレビドラマ「X-ファイル」にも、モルダー捜査官がCIAのチャラい男と入れ替わる回があります(シーズン6「ドリームランドPart1・2」)。この時は、軍部が密かに開発したUFOが時空を歪ませたことにより入れ替わった。モルダー以外にも、軍人と老婆が入れ替わったり、若いカップルは2人の身体そのものが融合してしまいました。

洋の東西を問わず、人格入れ替えはもはや古典的な設定といってよいでしょう。だからこの部分が人口に膾炙することはない。若者ならまだしも、少なくとも評論家をはじめとしたオトナは反応しないでしょう。

最大のネタバレになりますが、「君の名は。」最大のポイントは、彗星による災害が起こることを知ったタキが、ミツハたちを救おうと3年後の未来から助けに来たという設定にあるのではないでしょうか。これは要するに、

ドラえもん

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です。

自分のおじいさん(のび太)がダメ人間だったために、何とかせねばと送り込まれたのがドラえもん。ミツハを助けに行こうとしたタキ。構図としては同じです。

Chasmを超える力

ブームと呼ばれるほどの想定外の大ヒットは、プロモーションの力だけでは生まれません。プロダクト(作品)の良さは当然として、それを誰かに伝えたいという欲求に転換する力もあることが肝です。

本作では予告編で男女入れ替えであることは紹介されている。しかもそれは使い古されたシナリオ。しかし、タキとミツハの時間軸が3年ズレていることはわかっていない。この点が友人などにネタバレしたい衝動にかられるポイントであるはず。でもネタバレは厳禁。だから、

すんげえから! 絶対見に行きなよ!

とだけ伝える。これが推測される口コミ内容。
つまり、「君の名は。」の大ヒットは、男女入れ替えという古典的設定に、時間軸をプラスしたことから生まれたドキドキ感にあるというのが、私の結論です。

こうしたネタバレギリギリの欲求は、アーリーアダプター(初期採用者)からアーリーマジョリティ(前期追随者)の間に横たわるとされるキャズム(裂け目)を飛び越えるパワーとなります。

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もちろん、口コミの強さだけではありません。

1回の視聴ですべてを理解することができないほど、細かく作り込まれているので、二度、三度と見に行く方がいるのは「シン・ゴジラ」と同じ。
他人に薦めるだけでなく、一度見た人がまた見に行きたいと話していることは、口コミが嘘ではないことを裏付け、トライアルへの安心感へとつながります。リピート視聴する動きも、アーリー・マジョリティの視聴意欲を刺激しているはずです。

今年のヒット商品ベスト3以内は確実と思われる「君の名は。」。まだ見に行っていない方は、このようなマーケティング的な観点で見ると、また違った面白さを感じていただけると思います。

さて、ラストシーンですが、あれはあれでよかったのでしょうか?
「あしたのジョー」世代としては、あそこはああしないで欲しかったな……という気持ちが強いです。

というより、ああしなければ続編も期待できたのに……。興行収入200億円も視野に入ってきた「君の名は。」ですが、公開前は「せいぜい10億円くらいだろう」と考えていたとか。続編などハナから考えていなかったのでしょうか。

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