アマゾンAWSにみるインフラ型サービスの強み
目 次
ここ4年で2倍の売上
アマゾンの強さは、今さらいうまでもありませんが、改めてその売上推移をグラフにしてみると、その急激な伸びに驚かされます。
ガベージニュースさんが紹介されていた、アメリカ合衆国の電子開示システムEDGARのデータをもとに作成してみました。
昨年2016年末の売上は1350億ドル(14兆4000億円=1ドル107円換算)。2012年から2016年のわずか4年間で、売上高は単純に2倍です。
セブンイレブン(約4兆5000億円)、ファミリーマート(約3兆円)、ローソン(約2兆1000億円)のチェーン売上を合計したものよりも、さらに1.5倍あるのだから、どれだけ巨大であるか想像できます。
AWSがさらなる投資を下支えする
アマゾンの恐ろしさは、その売上規模にあるのではありません。投資家などは、もはやアマゾンを小売業と見てはいないでしょう。それはAWS(Amazon Web Service)というクラウドサービス事業が、全世界シェアの3割を握っているから。
アマゾンの売上を、北米小売業、海外小売業、そしてAWSに分けてみると、ここ3年間は以下のようになります。
AWSの売上は、小売事業に比べれば、まだ小さい。しかしこれを営業利益で見ると、こうなります。
小売事業は海外事業の赤字があるので、実質的に10億ドル少々の利益しか生み出せていませんが、AWSはその3倍の利益を叩き出している。利益構造から考えれば、アマゾンは小売業ではなく、クラウドサービス業ということになります。
しかも、AWSを三菱東京UFJ銀行が採用するという話もあり、まだまだ伸びる余地は十分にある。
インフラ型サービスとは何か
会社を立ち上げる時、事務所を構えるのであれば、電気・ガス・水道と契約しないことはないでしょう。
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インフラ型サービスとは、それと同じこと。AWSは、クラウドサービスを始めようという企業にとって、検討の俎上にのぼらないことはない。クラウド界のインフラとなりつつあります。セブンイレブンとアスクルが、アマゾン対抗で共同戦線を張っておりますが、そんな公共サービスのような収益源を抱えるアマゾンに、太刀打ちできるはずがありません。
昨年、ソフトバンクがイギリスのアーム(ARM)社を買収しました。
ソフトバンク孫氏、ARM買収「たかが3兆円」。英政府「歓迎できる」 - Engadget 日本版
3兆円という額にも驚かされましたが、それだけの価値があると見込んだのも、「世界中のスマートフォンの97%がARM社設計チップを搭載している」というベースがあるから。アーム社の設計技術なくして、スマートフォンはありえない。アーム社もまた、スマホの内部に隠れたインフラといえます。
他社に真似されない技術
インフラ型サービスは、IT技術だけではありません。
飲食店を始めるとしたら、調理器具類とともに調味料も必要。「さしすせそ」である、砂糖、塩、酢、醤油、味噌を用意しない飲食店などないでしょう。そして、中華料理店であれば、うま味調味料である「味の素」も必須。中華料理の美味しさは「味の素」なくして出せません。
調味料としては、塩も味の素も定番ですが、例えば下記の写真にある「赤穂の天塩」はインフラとはいいにくい。しかし「味の素」は確実にインフラ型製品です。
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塩は以前は、専売公社の精製塩しかありませんでした。しかし自由化以来、さまざまなにがり塩が登場しています。塩は人間が生きていく上で、絶対に欠かせない調味料ではあるけれど、製造技術は固有とはいえません。だから複数ブランドが乱立している。
でも、うま味調味料のジャンルは、今や「味の素」が市場をほぼ抑えている。「いの一番」はあることはありますが、消費者向けに見かけることはなくなりました。
そして今さらうま味調味料の事業に参入しようという企業はいないでしょう。設備投資だけでなく、「味の素」を上回る技術に基づく新製品を生み出す可能性は、ほぼないからです。ライバルの参入障壁が高いことも、インフラ型サービス(製品)であることの特徴です。
みんなを儲けさせてくれたiPhone
インフラ型サービス(製品)と、単なる定番品との違いは、他社に真似されない技術ということだけではありません。それよりも重要なのは、
そのサービス(製品)により儲かるか
ということ。これが決定的な違いです。
公共サービスとしての「電気」は、それなくして多くの企業が成り立たないのと同時に、儲けの源泉でもあるのです。飲食店にしてみれば、「ガス」「水道」も儲けを生み出してくれる貴重なインフラです。
日本時間の本日発表になった「iPhoneX」。ちょうど10周年ということも含め、話題になっています。
未来をその手に。iPhone X。
— Apple (@Apple) 2017年9月12日
最新の機能がどうであれ、iPhoneがここまで人気を博したのも、そのデザイン性もさることながら、アプリ開発やさまざまな周辺サービスなど、巨大なスマホ経済圏を実質的に生み出したから。iPhone以前のブラックベリーなどのスマートフォンは高機能なだけであり、そこに儲けの芽はありませんでした。
アマゾン、グーグルとツイッターの違い
アマゾンの強さは、クラウドサービスであるAWSは当然のこと、マーケットプレイスによって、誰でも中古品の売買ができるようにしたこともあります。自分の手元に眠っていた書籍や不用品を売ることができる。儲けはごくわずかであっても、重要なことです。
グーグルはさまざまな広告を独占するのではなく、多くのブロガーたちをアフィリエイトによって稼がせることによって、成長を加速した。その典型がYouTubeでしょう。自分もだいぶ前ですが、なにげに投稿した動画が、思わぬアクセスを呼び、わずかながら収益になり、ビックリしたことを覚えています。
ごく普通の人であっても、動画を投稿することによる儲けの仕組みを作り上げたから、一部の層にはテレビを上回る影響力を持つようになったといえます。
他の動画投稿サイトは、自己満足が得られるだけ。それでは市場としての盛り上がりに限界があります。他にもっと面白いモノが登場したら、そちらに奪われてしまうリスクを、常にはらんでいる。
しかし、「儲ける」という人間の欲によって繋ぎ止められていれば、面白さだけでは簡単に靡きません。「もっと儲かる」ことがわからないと動きません。
そう考えると、ツイッターが数億人のユーザーを抱えながら、いまだ方向性を見出だせずにいるのは、世界の要人、タレントの無料PRツールになっているだけで、個人や企業が直接的に利益を生み出すサービスではないからという見方もできます。
It was a great honor to welcome Prime Minister Najib Abdul Razak of Malaysia and his distinguished delegation to the @WhiteHouse today! pic.twitter.com/3pWrBOh8dG
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2017年9月12日
今をときめくアマゾン、グーグル、アップル。いずれも定番商品より、さらに強いインフラ型サービスが事業を支えている。その仕組みを構築できたものだけが、時代の真の勝者となるのです。
2017/09/14