EMP(電磁パルス)攻撃の脅威に備えはできるのか

水爆実験の意味

北朝鮮によるミサイル発射に対応したJアラートが、「うるさい」「意味がない」と物議を醸したのは、わずか前のこと。

【北ミサイル】堀江貴文氏、Jアラートに「起こすな」 - 産経ニュース

異常事態に心の平静を保つための「逆張り」は、ままあること。
しかし、今度は水爆の実験に成功したとのことで、そんなだらけた空気も一掃。にわかに国際情勢の緊迫度が高まっております。それは、「EMP(電磁パルス)攻撃」について言及したから。

EMP(電磁パルス)攻撃とは何か

EMPとは「Electromagnetic Pulse」の略。高高度で核を爆発させ、それにより発生する電磁パルスが、あらゆる電子機器、電気設備を不可逆的に無力化してしまう攻撃です。

防衛省防衛研究所昨年(2016年)2月の紀要に、「ブラックアウト事態に至る電磁パルス(EMP)脅威の諸相とその展望」(一政祐行氏)という論文が掲載されています。
この文中に、EMPに詳しいマイケル・F・マルーフの「A Nation Forsaken: EMP: The Escalating Threat of an American Catastrophe」からの引用で、どのような事態になるかが詳しく書かれています。少し長めの再引用となりますが、紹介しておきましょう。

具体的には、広域に及ぶ EMP被害によって、電子制御が主流となっている今日の殆どの自動車輸送トラックが可動しなくなり、ガソリンスタンドは地下タンクからの汲み上げ用電動ポンプを失うことで燃料供給を途絶し、全世界で300万人もの利用者がいるとされる心臓ペースメーカーは、体内で加熱して使用者に肉体的なダメージを及ぼすと指摘する。また、ラジオTVは完全にその機能を停止するため、混乱時に多くの市民が求める情報のアベイラビリティは極度に低下する。非常用のバックアップ設備を温存した放送局があったとしても、自家発電のための燃料自体が数日で尽きることは目に見えているため、追加的な発電機への燃料供給が途絶すれば、機能を停止するケースが相次ぐと予想される。通信分野に目を向ければ、携帯電話固定回線電話と比べてもEMPに対して脆弱であり、その殆どが機能しなくなると考えられており、これは非常事態において、市民が警察や消防に緊急連絡する手段を失うことを意味する。また、為替といった電子化された商取引のシステムも甚大な被害を受け、最悪の場合は全てのオンライン情報がバックアップもろとも消滅する可能性がある。人間が生命活動を維持する上で最も基本的な要素である食糧についても、電力・輸送インフラが機能停止してから間もなく、その生産と流通の両面で広域にわたり深刻な欠乏状況が生じるであろうことが予想されている。
(「ブラックアウト事態に至る電磁パルス(EMP)脅威の諸相とその展望」(P10-11)より)

つまり、電気なくして稼働しないものは、すべて止まる。スマホやパソコンのみならず、今や走る電子機器である車やトラックも止まる。航空機ももちろんそうでしょう。飛行中だといったいどうなるのか……。

しかも復旧にどれだけの時間がかかるかわからない。5年なのか、10年かかるのかすらわからない。ここが大きな問題です。

倫理観を問う卑怯な攻撃

広島、そして長崎で受けた原爆被害は、日本のみならず、世界各国に知られていること。だから、核爆弾をそのまま敵国に打ち込むようなことをすれば、必ずや世界から非難の声が上がり、結果として自国に同じ攻撃を呼び込んでしまう。それでは自らが生き延びることはできない。そこまで「彼」は馬鹿ではないでしょう。

しかしEMP攻撃であれば、瞬時に人を焼き殺すようなことは起きない。代わりに、真綿でじわじわと首を締められるようなことが起きる。
大昔の電気のない生活に、ある日突然引き戻される。食糧はおろか、水すら手に入るかわからない。そんな状況下において、人間はどれだけ理性を保てるのでしょうか。

韓国KBSでは、ソウル付近に攻撃を受けた場合、「石器時代に戻る」と紹介されています。

全文表示 | 北朝鮮「電磁パルス攻撃」の破壊力は? 「先端兵器使えず石器時代に」と韓国悲観 : J-CASTニュース

上記論文では、アメリカのハリケーン「カトリーナ」の後に起きた治安の悪化を例にあげています。文明そのものに対する攻撃により、脅かされた生活。身に迫る生命の危険をどのように乗り越えるのか。略奪、収奪、暴力が起きない理由はない。
EMPによる攻撃は、攻撃を受けた側の倫理観を脅かす、極めて卑怯な攻撃ともいえます。

あの国がEMP攻撃をしてもおかしくない理由

上記論文には、すでに核を保有している大国が、EMP攻撃をしにくい理由が書かれています。

HEMP攻撃は低軌道上の人工衛星に無差別に影響を及ぼすため、一般的に宇宙利用が進んでいる国々では HEMP攻撃により生じる被害が極めて深刻(以下略)
引用同、P13)
※HEMP=「High Altitude Electromagnetic Pulse」の略。

仮に大国が北朝鮮に対し、EMP攻撃をするなら、その上空に飛んでいるであろう軍事衛星をも破壊することになる。つまり、その後の「監視」ができないことになる。だから大国はEMP攻撃はできない。

しかし、北朝鮮は人工衛星を持たない。

一方で、例えば北朝鮮のように宇宙利用が進んでいない途上国では、EMP攻撃によって直接被る影響も総体的に少ないことから、HEMP攻撃を実施する敷居に高低が生じる旨指摘されている。
引用同、P13-14)

ミサイルによる直接的な打撃よりも、EMP攻撃を選択する可能性は、決して低くないのでしょう。

何を準備せよというのか

ミサイルが打ち込まれるとなれば、地下に逃げるか、頑丈な建物の奥に入ることで被害を軽減できる。しかしEMP攻撃は、対処のしようがありません。自分のいる場所を電磁パルスから守るなどということは、現実的ではありません。

大きな災害であれば、食糧などを3日から1週間分確保しておくことが推奨されています。しかしEMPによる被害は、復旧にどれだけの日数がかかるかすら不明。
「19世紀への逆行」と呼ばれる事態を、いかに乗り切るのか。水というよりも「水源」を確保することをイメージせねばならないでしょう。19世紀は、水源は自由に確保できたはず。21世紀の日本は、そういう点では19世紀よりも不便であることを覚悟しないといけないのかもしれません。

劇画「ゴルゴ13」の103巻に「15-34」という回があります。アメリカの学者が開発したコンピュータプログラムが自己成長し、自らをキリストであると名乗る。そして(キリストとしての)自らを脅かしたゴルゴ13を、人工衛星による核攻撃で殺そうとする。
しかしゴルゴは、その核搭載衛星を自己爆破させることにより、危機を回避する……のですが、もちろんEMPと同じ現象により、アメリカ中のパソコンや電子機器は一斉にダウンした。

1993年に発表された作品で、「あまりにも荒唐無稽な話」とされてきた回ですが、AIも身近な話となり、プログラムが自己成長することは、遠い未来の話ではなくなりました。そしてEMP攻撃。まさか今身に迫る危機として実感するとは。

「漫画の世界の話」で終わることを、ただ祈るばかりです。

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      2017/09/15

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