マーケターは「ビッグデータベースボール」を読むべし

日本プロ野球開幕1か月

プロ野球では、今年から試合開始前に国旗掲揚と国歌斉唱が必ずあります。素晴らしい。

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開幕前、プレイ以外のことでドンヨリとさせられたプロ野球。賭博問題でもうひと波乱ありそうですが、なんとか1か月が経過いたしました。プロ野球ファンの皆様、いかがお過ごしでしょうか。

最下位を爆走しつつあった我がベイスターズ。ようやく回復基調にありますが、問題は今日。今日は勝ちたい。
ただ、勝利に一喜一憂しないのは弱小球団ファンの鉄則。そんな時はこういう本を読むに限ります。日経の書評に「むむっ」と興味を持ち、フォロワーさんの「おもしろいよ」という声を聞き、Kindle版を買ってみました。

20年連続負け越し球団であるピッツバーグ・パイレーツ。ハハハ、ホント弱いな。我がベイスターズはたったの14年連続負け越しだよ。
ちなみに20年連続負け越しというのは、北米4大スポーツ、アメフト・野球・バスケットボール・アイスホッケーの中で最長記録だそうです。

ピッツバーグという街には、アメフトの強豪スティーラーズがあります。そんな街に20年連続負け越しているMLB球団がある。とはいえ、開幕前はファンもこんな気持ちになる。

開幕日には毎年必ず、ほかの日とは違う活気を感じる。ピッツバーグで確実に球場が満員になる数少ない日の一つ。地元の球団に対して市民がマイナスの感情を抱くことのない数少ない日の一つ。投手が第1球目を投げる前には、期待があり、喜びがある。
ビッグデータ・ベースボール 20年連続負け越し球団ピッツバーグ・パイレーツを甦らせた数学の魔法より引用。以下同)

そうなんですよねぇ。よくわかります。開幕前のあの高揚感。
そして試合後こうなる。

どんよりと曇ったうすら寒いこの日、ファンは口々に「また今年もか」とつぶやきながらPNCパークを後にした。

わかる! わかるぞ! パイレーツファン!

マネーボールからビッグデータベースボールへ

野球界に衝撃を与えた本といえば、「マネーボール」があります。

打率や本塁打よりも四死球を加味した「出塁率」を重視することで、低予算球団アスレチックスを常勝チームに変貌させた話。ただ、出塁率は簡単に手が入るデータ。
「ビッグデータ・ベースボール」は

PITCH f/x

という投球データ解析システムが基本となっており、シロウトはおいそれと手に入らない。入手できたとしても、解析するには統計的知識やセンスも必要というわけです。

弱小球団パイレーツは、このデータを駆使して、20年ぶりにプレーオフに進出することができた。種明かしの1つは、「ピッチ・フレーミング」というデータにより、捕手の能力を数値化したことがポイント。

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詳しいことは省きますが、そんなこともわかるのかと驚くはずです。

そして、日本であれば「王シフト」に代表されるようなシフトを、徹底的に採用した。左打ちの強打者の場合、打球はライト方向に飛ぶことが多い。だから二塁手は1塁と2塁のほぼ真ん中にポジションさせ、ショートを二塁後方に守らせる。これを強打者だけでなく、全選手に適用した。

ただ、シフトの課題として誰もがすぐに思いつくことは、もちろんパイレーツでも問題となった。

極端な守備シフトの裏をかいた流し打ちの打球がヒットになるたびに、投手は不満をあらわにした。そんな時は、逆に守備シフトのおかげでヒットがアウトになった数のことなど頭から消えてしまいがちだ。

選手の理解促進のためにしたこと

この本を「マーケターが読むべき」と感じるのは、長年トップレベルの野球をしてきた選手たちに、データの重要性を納得してもらう方法。

選手たちは生まれながらにして何らかの身体的な才能を有しているが、野球に対する本能というのは実際には経験のことで、練習を繰り返すことで得られる副産物なのだ。

身体にプレイが染み付いているトッププレーヤーたちに、データを呈示するだけでは納得してもらえない。そのために作られたのが「チャート」。つまり直感的にわかるように図示すること。

「打球のチャートはとても大きな意味があった」バームズは語る。「チャートを眺め、あれほどの数[の打球]を見て、センター前に飛ぶのが1本か2本だけで、それ以外のほとんどの線がある決まった範囲内に収まっているのを確認すれば、『なるほど、ここに立った方がいいな。理にかなっている』と思うよ。理論を立ててそれを[視覚的に]示してくれたことは、特に慣れていない人間にとっては、納得するうえでとても役に立った」

そのチャートがどのようなものであったのか示されておりませんが、似たようなチャートは今、MLBの公式サイトで誰もが見ることはできます。
今まさにやっているニューヨーク・ヤンキース対カンサスシティ・ロイヤルズの試合。田中将大投手はノックアウトされたようですが、その右側のデータボックスの「FIELD」をクリックすると、その試合で、どちらのチームがどこにインプレイの打球を飛ばしたかがわかります。

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バーンズ選手は、自分のポジションに関するこのようなデータを見たはず。そして長年慣例的にいた守備位置とは違ったところにポジショニングすることを直感的に理解したわけです。

データを使ってもらうために必要な能力

数字を羅列しただけの表を見ただけでウンザリする人は多い。ましてや野球しかやってこなかったような選手だったらなおさら。そんな選手たちとコミュニケーションを取るには、数表ではなく、チャートで示す必要がある。
これは野球に限らない。調査会社や、企業内の調査部門の人間が、隔靴掻痒感を覚えるのは、伝統的な図表に頼るばかりで、直感的に誰もがわかる表示方法を取っていないからでは。

そして、データを扱うマーケターはチャート作成能力だけでは足りない。
パイレーツ2人目のデータ分析官として雇われたMIT出身のフィッツジェラルドは、こんな才能があったと書かれています。

フィッツジェラルドとMITの同級生たちとの違いは、複雑な数学的概念を簡単なたとえを用いて伝えることができる才能だった。

人間は情報を、視覚的に捉えるばかりではない。聴覚も含めたさまざまな感覚を総合的に駆使して理解する。いくらチャートがわかりやすくてもダメ。それをわかりやすい言葉に置き換えて伝える能力もまた重要というわけです。

また伝えるばかりでなく、選手側からの意見にもすぐ答えられる体制をとっておく。

時間をかけながら互いの距離を近づけたことで、古い教えを受けた陣営と新しい考え方を持つ陣営という異なる才能の間に敬意と理解が生まれ、それによってパイレーツはコミュニケーションという大きな優位を作り上げた。コミュニケーションはデータに基づく発見が2013年にグラウンド上で生かされることを可能にしただけではない。コミュニケーションがあったおかげで、観察から生まれた質問をコーチいや選手が分析官に投げかけ、それによってデータはいっそう洗練されていった。

これこそマーケターと現場との理想的な関係といえましょう。

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そして日本プロ野球は……

MLBは「PITCH f/x」だけでなく、選手の動きを追跡する「スタットキャスト」を、昨年から全30球場で運用している。これがどのくらい恐ろしいデータか。文中ではこのように書かれています。

画面上に表示された情報は、その時のヘイワードのリアルタイムのデータだ。打球を追うヘイワードは、毎秒4.6メートルずつ加速して時速29.8キロのトップスピードに達した。スタートしたのは打球の落下地点から24.6メートル離れた場所で、25.4メートルを走って打球をキャッチした。打球を追ったルートの効率は97パーセントで、ほとんど無駄のないルートを走ってボールをキャッチしたことになる。ヘイワードは打球への反応でも俊敏さを示し、一歩目を踏み出したのはバットがボールに当たってから、わずか0.2秒後だった。(略)打球がターナーのバットを離れた時の速度は時速141.3キロ、上昇角度は24.1度、飛距離は95.7メートル、滞空時間は4秒、PITCH f/xにステロイドを投与したようなデータだった。

今まで感覚でしか捉えられなかった守備能力が、すべてデータで分析される。MLBはそういう時代に入ったのであります。

一方日本は、放映権をはじめ、各球団の足並みを揃えることすら不可能。最近ようやくブラッシュアップされた野球機構の公式サイトはこれですから。

NPB.jp 日本野球機構

ソフトバンク、楽天、そしてDeNAと、IT関連企業が揃っているというのに……。

書の最後に、スポーツライターである生島淳氏が解説しておりますが、その一文が、日本プロ野球の現状を表しています。

個人的な感想だが、『ビッグデータ・ベースボール』を読むと、日本の野球はメジャーリーグに比べ、ずいぶんと後れを取ってしまったと感じざるをえない。アメリカ的な発想を取り入れている球団はあるのだが、スタッフと現場の間の連携がうまくいっていないなど、成績になかなか結び付いていない。それは野球の差だけではなく、テクノロジーの差だったり、野球の未経験者を受け入れきれない保守的な発想の差だったりもする。

競技の根幹を揺るがす野球賭博問題すら、いまだスッキリと解決できないのだから、複雑なデータを一括で収集し、提供するなんてことは、夢のまた夢か。

データマニアとしても大変刺激を受けた「ビッグデータ・ベースボール」。野球ファンだけでなく、マーケティングに携わる方にもぜひ読んでいただきたいものであります。

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