美しすぎる履歴書とAnonymous
自己PRという弊害
就職活動解禁は、大学3年次の3月1日と経団連は決めたけれど、ローカル企業にしてみれば、そんなことは何ら関係のないこと。現在の趨勢としては、早晩元に戻されるのでは。もしくは、意味のない協定なぞ廃止する。それでいいと思います。
この時期になると、学生から「履歴書の自己PRを添削してくれ」という要望がある。メールで送らせたり、LINEに貼り付けさせたりで対応しておりますが、だいたいみんな書くのが「リーダーシップ」ということ。
「自分は部活で◯◯長をやっていたのでリーダーシップがあります」「アルバイトのリーダーでした」。そんなものは、もはや意味を成さないことは学生もわかっている。でも書かざるを得ない。なぜなら、そんなことでも書かないと、欄が埋められないから。
ありえないリーダーシップ
だいたい、リーダーシップなるものを本当に持っている人間なんて、100人に1人いるかどうか。いや、1000人に1人かもしれない。そんなのみんなわかっているのに、就活になると、学生も、そして企業も「リーダーシップ」を重視する。
自分もまさに今、所属する部署ではリーダー的な立場だし、過去にも同様の立場を担当したことはあったけれど、自信なんてあるはずがない。自信がないから一生懸命やるしかない。それだけ。これは多くの人がそう思っていることでしょう。
そんな「リーダーシップ」を、たかが20年少々生きてきた大学生が持っている? ありえない。
大学生が書くべきこと
とはいえ学生は何か書かなければならない。リーダー的立場をやったことは、学生にとって貴重な経験。実際そういう立場をやったものは、やはりそれを書きたい。
そういう時に私が「こういうふうに書け」と教えていること。それをここをお読みいただいている方だけに、コッソリお教えします。
だいたいリーダーシップなんて、いったいどうやれば発揮できるのか、実際のところみんなわかっていない。大きな声を出す。先頭に立ってやる。それくらいでしょう。
「リーダーなんてやりたくない」と思っている人は、世の中に数多いる。それがまた不幸を生んでいるのだけど、そこを理解すれば、実は他人と差別化した自己PRができる。
それはつまりこういうことです。実際に学生が履歴書に書きそうな自己PRのように書いてみましょう。
私は大学で小さなプロジェクトに入りました。そこで誰もリーダー役をやろうとしないので、私がやることになりました。そんな立場になるのは初めてだったので、最初はかなり戸惑いました。しかし、メンバーの協力もあり、プロジェクトは何とか成功することができました。
自分がリーダーの立場になって初めてわかったことは、メンバー1人1人の動きです。誰が協力的で、非協力的か、リーダーになってみて如実にわかりました。そして、自分がリーダーでない時にとっていた過去の行動を恥じる思いも湧いてきました。以来、自分がメンバーとなった時に、リーダーに積極的に協力するよう心がけております。
自分がリーダーとなったことで、リーダーシップが身についたとは思えませんが、メンバーとしてリーダーに積極的に協力すべきことが身にしみて理解できたことは、学生時代の貴重な財産となっています。
要は、リーダーシップよりメンバーシップ。リーダー1人の力で成し遂げられることなんてほとんどない。メンバーがいかに協力してくれるか。だから、リーダーがガミガミ言わずともメンバーが積極的に動く組織が強い。学生に限らず、リーダーを体験した人であれば、こんな風に書くと、極めて現実的な内容で、かつ理解されやすいものとなるはずです。どうぞご自由にお使いください(笑)。
リーダー不在のAnonymous
そんなことをツラツラと考えている時に、ある文章を読んで、「あぁ、たしかにこれからはリーダーシップなんて意味ないよな……」と思いました。
その文章とは、こちら。
世界的に有名なハッカー集団4組を徹底解説:それぞれの成立経緯と活動目標 | ライフハッカー[日本版]
世界的ハッカー集団を解説したライフハッカーの文章。
おそらく最も有名で、文中でも最初に書いてあるAnonymous(アノニマス)。そのサブタイトルには、こうある。
特定のリーダーはいないのに、まとまっている。
有名企業を攻撃したかと思えば、ついにはISも攻撃する(結果はどうなった?)。何がポリシーなのかわからないのも、リーダーがいないのだから当然のことか。
巨大掲示板をはじめとした、いわゆる「ネット民」の攻撃も同じ。誰かがなにげに書き込んだことに、いつの間にか火がつき、そこに油を注ぎ、ついにはガソリンを撒き散らす輩が現れる。それがネット社会。
特筆すべき点は、Anonymousは中央集権的側面をまったく持たないということで、これらのキャンペーンは誰か特定の「リーダー」によって扇動されているわけではないのです。
(世界的に有名なハッカー集団4組を徹底解説:それぞれの成立経緯と活動目標 | ライフハッカー[日本版]より)
今はネット社会限定で考えられているかもしれないけれど、これからは「会社」という場所に通勤しなくなる可能性はある。オフィスワークを取り入れる企業が増えているから、ひょっとしたら同じ会社の社員であっても、一度も顔をつき合わせることなく、仕事が回すという時代が来てもおかしくない。事実、フリーランスの世界はそんな事例は、すでに山ほどあるでしょう。
このような時代に「私はリーダーシップがありまして……」なんて滔々と語ることに、果たして何の意味があるのか?
美しすぎる履歴書の意味
今は大学全入時代。一昔前より労せずして最高学府に足を踏み入れている学生たちは、実は挫折を知らない。
そんな学生たちが初めて体験する挫折は就職活動。テストの点が悪かったから×と言われるのは慣れているけれど、面接でダメだといわれると、あたかも全人格が否定されたかのように落ち込む。
だから学生たちは、それだけは避けたいと、自分の履歴書を美しく化粧する。そして「ありえないリーダーシップを身につけた学生」があちこちに誕生する。
就活学生を中心に蔓延る「美しすぎる履歴書」。それを審査する企業の人々。ありもしないことを、そうだろうなと思いつつも、そのまま対応する。みんなで無駄なことにパワーを注いでいる。
いつまでこんなことを続けるのでしょうか。
リーダーシップという響きのよい言葉にいつまでも惑わされてはいけないし、また、これからはリーダーシップがなくとも動く組織を醸成せねばならない。大学と企業は、いつそのことに気づくのでしょうか。