道具の使いやすさが美しい仕事となる
江口寿史を復活させた道具
先日書いたこのエントリに少々補足。
漫画家江口寿史が、自らの絵を「硬くなった」と評し、昔のタッチを取り戻すために、雑誌などにある写真から気に入ったものを5分でスケッチしてるよというもの。絵を描く方だけでなく、仕事を長く続けている方には、かなり共通する部分があるということで紹介いたしました。
どうです、この絵なんて。センスのない自分には神技にしか思えません。
ほら元写真のヤンジャンのグラビアとの比較だよ。どこをどうはしょってるのか、どこを自分の絵に変換してるのかわかるだろ。勉強になるだろ!(笑) pic.twitter.com/1iWfjFuW2H
— 江口寿史 (@Eguchinn) 2014, 4月 1
そんな彼の「5分スケッチ」を取り戻すきっかけとなったのは、三菱鉛筆の「uni-ball Signo 0.38」という、コンビニでも売っているペンだった。
若い頃、ジャンプ時代はこれよくやってたんだけど、そのうちほとんどやらなくなってた。最近よくツイートしてる0.38のゲルインクボールペンに出会ってからまたやるようになったんだよ。
— 江口寿史 (@Eguchinn) 2014, 3月 26
何度も言ってるけどuni-ball Signo の0.38はスバラシイ。 RT @track8 signo?
— 江口寿史 (@Eguchinn) 2014, 3月 26
このなんてことないペンが偉大な漫画家を「復活」させたといったら大げさか。 ただ、この「uni-ball Signo 0.38」は2種類あって、江口寿史先生がお使いなのはノック式。
最近お気に入りのuni-ball Signo 0.38。ノック式はなぜかコンビニにしか売ってない。 http://t.co/MwU4xKauQA
— 江口寿史 (@Eguchinn) 2014, 3月 28
それ違う!こっちの方! http://t.co/wmPBjKQgSm @kubo_3260 これか…メモメモ http://t.co/XY8YoMYX4t …
— 江口寿史 (@Eguchinn) 2014, 3月 29
uni-ball Signo 0.38 ノック式
キャップ式ではなく、ノック式であることが重要。買ってまいりました(笑)。両方(笑)。
上が江口先生ご推奨のノック式。下がキャップ式。当たり前ですけど、ノック式はペンを手に取って、すぐにカチッとやればペン先が出てくる。片手でとりかかることができる。
ところがキャップ式だと、片手ではなかなか難しい(できないことはないが)。右利きの方なら、左手でキャップをはずす必要がある。
描き味については、江口先生は「0.38mmが合っている」と語っている。「これでなければダメ」ということではなく、自分に合ったペン先があるでしょうとも。
ああーいやいや、0.28が自分に合うというならそれが一番じゃないですか。0.38は僕にはものすごく合いますけど、どの道具が合うかは人によってそれぞれですよ。 RT @nirvanahouse 0.28は細過ぎですか。signoヘビーユーザーとしては、この細さがたまりません。
— 江口寿史 (@Eguchinn) 2014, 3月 29
「ノック式でないとダメ」とも語っていないので、おそらく「キャップ式が合うならそれもよし」とされるのではないかと思います。
ただ、この手順がないことが、漫画家江口寿史の「素振り」を復活させた。キャップをはずすだけのことかもしれない。ただそれは、数十年ぶりに大きな動きをしようとする人間にとって、無視できない大きな動作だったといえます。
道具の使いやすさは美しい仕事となる
「鬼と呼ばれた宮大工」として有名な西岡常一。もう亡くなって何年もたちますが、かつてNHKで特集された映像が映画にもなりました。彼の名言がtwitterのbotにもなっていて、その中にこんなものがあります。
独立する時は道具を一式揃えてもらえます。親方のよりいいものを持ちますな。道具はいいものを与えないと性根が入りません。「わしは親方より上等ののみを持っている。親方があの仕事するのに、俺ができないわけはない」と思うでしょ。だから親方よりいいものを持たせる。これが無言の教育です。
— 宮大工 西岡棟梁に訊け (@kinimanabebot) 2014, 3月 27
「いい道具を使え」ということを暗にわからせるために、親方よりも上等の道具を揃えさせる。そうした道具を使うことにより、仕事も美しいものとなる。
「人は仕事をしているときが美しい」いいますな。それは、人の動きや心に無駄がないからです。建造物も同じですな。機能美というんでしょうな、こういう美しさを。飛鳥の建造物にはこうした機能を第一とした美しさがありますな。
— 宮大工 西岡棟梁に訊け (@kinimanabebot) 2014, 3月 27
私の仕事を支えるのはこのキーボードか。
ELECOMのキーボード。研究室も自宅も全部これ。タッチの深さ、柔らかさがちょうどいい。カタカタ音が心地よい。このキーボードに指が完全に慣れてしまっているため、ノーパソのキーボードをたまに使うと、非常に使いにくい。美しくありません。
もしこれが別のキーボードだったら、今こんな文章を書くのも億劫になる。というより、書こうと思わない。そういうものでしょう。
江口寿史先生の「uni-ball Signo 0.38 ノック式」。美しい仕事のために、自分に合った道具を用意する。仕事は精神論だけでなく、技術論でも語られてしかるべき事例だと思います。